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東京地方裁判所 平成7年(特わ)598号 判決 1995年6月30日

本籍

福島県郡山市字名倉四〇番地の二

住居

不定

会社役員

木村和雅

昭和三六年四月一〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官林菜つみ、弁護人伊東章各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成二年三月一五日当時、東京都品川区小山台一丁目三番二-一〇一号に居住し、同年一月まで埼玉県越谷市弥生町一一番一二号弥生町小澤ビル二階ほかにおいて、「喫茶ゴールドラッシュ」等の名称でゲーム喫茶を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、他人が右店舗の経営者であるかのように装うとともに、所得を明らかにする帳簿を作成せず、かつ、右店舗からの収入で無記名割引債券を購入し、偽名を用いて中途解約するなどの方法により所得を秘匿した上、平成元年分の実際総所得金額が二億二〇八一万〇七〇九円(別紙1の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、右所得税の法定納期限である平成二年三月一五日までに東京都品川区中延一丁目一番五号所在の所轄荏原税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の所得税額一億〇五二一万八五〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カード(検察官請求分)の証拠番号である。

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙1ないし6)

一  木村美紀、谷ケ崎信一、石川京蔵及び早坂敏郎(二通)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の現金調査書、普通預金調査書、定期預金調査書、割引債券調査書、出資金調査書、貸付金調査書、前払金調査書、店舗造作調査書、空調設備調査書、ゲーム機調査書、車両調査書、礼金調査書、敷金調査書、木村茂勘定調査書、事業主貸勘定調査書、事業主借勘定調査書、給与所得調査書、給与所得控除調査書、所得控除額調査書及び源泉所得税額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲5、18、28、29)

(法令の適用)

※以下の「刑法」は、平成七年法律第九一号による改正前のものである。

被告人の判示所為は所得税法二三八条一項(ただし、罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)に該当するが、所定刑中懲役刑と罰金刑を併科し、かつ、情状により所得税法二三八条二項を適用し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が、ポーカーゲーム店の経営によって得た所得を全く申告せず、平成元年分の所得税一億〇五〇〇万円余をほ脱したという無申告ほ脱犯の事案であるが、ほ脱額は単年分としては相当高額であり、ほ脱率も約九九・四パーセント(給与所得から源泉徴収がなされている)と極めて高率に達している。犯行の主な動機は、自己が経営する有限会社大貴商事の事業拡大のため資産を蓄積するとともに、自己や家族が十分な生活をできるようにしたいというものであるが、後者はもとより、前者も右会社が被告人の個人経営的色彩が強いものであることからすれば、格別酌量すべき事情にはならない。また、被告人は、他人を営業名義人とし、収支を明らかにする帳簿を作成せず、毎日の売上金額等を記載したメモもその都度破棄していた上、売上金で無記名割引債券を購入し、中途解約する際には偽名を用いるなどしていたものであって、犯行態様は被告人の所得の実態把握を著しく困難にする悪質なものである。しかも、被告人は、平成元年一月に所轄税務署から所得状況等について問い合わせを受け、そのことを相談した右会社の顧問税理士から、ゲーム喫茶からの所得も申告しなければならないなどと指摘されたにもかかわらず、本件犯行に及んだものであって、納税意識の欠如も甚だしいというべきである。加えて、被告人は、平成四年六月ころから所在をくらまし、ホテルや友人宅等を転々としていたものであり、この点でも犯情は悪質である。以上によれば、被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。

他方、被告人は、査察調査終了直後の平成三年一〇月に本件起訴に係る平成元年分のほか昭和六三年分についても所得税確定申告書を提出し、これらの本税を完納していること、未納の附帯税七二〇〇万円余(昭和六三年分を含む)については、被告人が所有するマンションを売却し、その一部でも納付すべく努力していること、被告人は平成七年二月検察庁に出頭して逮捕されてから四か月余り身柄を拘束されているが、その間の捜査公判を通じて事実関係を認め、今後は正業について得た収入から未納の附帯税を納付していくと述べて反省の態度を示していること、被告人には罰金前科四犯があるものの、それ以外に前科はないこと、七歳と三歳の子供を引き取っている前妻が証人として出廷し、被告人と復縁して一緒に納税の努力をすると述べていることなどの酌むべき事情も認められる。

以上の事情を総合考慮した上、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円)

(裁判官 中里智美)

別紙1

所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙2

ほ脱税額計算書

<省略>

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